生体材料

分子配列

  • 例えば、分子1個1個をメモリーとして使うことができれば、膨大な量の情報を小さな空間に記憶することができます。私たちは、金属(インジウム)のナノ粒子を内部に持つフェリチンを用いて、2次元の分子結晶を作製しました。通常、電子デバイスはシリコンの基板の上に作られますので、「2次元」というところが重要です。球状の分子において、分子間に働く力を考えるだけでは決して2次元の分子配列は出来ません。様々な個体(3次元)の結晶成長機構をヒントに、同じような結晶成長を2次元のシステムで出来ないか、考え抜いた方法が「三相接触線」を用いる方法です。この方法で作った二次元の分子結晶は、過去のどんな例と比べてもケタ違いに大きな結晶であるだけでなく、分子が一つずつ積み重なって結晶ができた様子を電子顕微鏡で確認できます。*

    *ここで「結晶」という言葉は、粒子が規則正しく並んでいるという意味で使っています。厳密な意味での結晶とは少し違います。(文献13)

    図7 溶液を乾かすと分子が並ぶ。その時,親水・疎水のパターンを基板の上に作ることが重要です。


分子乱数

  • フェリチンの分子内部の空洞には様々な金属ナノ粒子を入れることができます。外からみて区別をすることは出来ません。もし、中身の異なる2種類のタンパク質分子を混ぜて結晶を作るとどうなるでしょう?分子は整然と並んでいるけれども、2種類の分子の配列はバラバラ、そんな分子結晶ができるかもしれません。実験の結果、分子の配列がランダムであることがわかりました。現在、乱数は、インターネット取引での個人認証や地震や気象などの予測に用いるコンピューターシミュレーション全般に使われています。これらは、数学的なアルゴリズムを用いて発生されており、実は、そのアルゴリズムをわかっている人にとっては、「予測可能」な乱数であると同時に、何度でも発生できるもので、「疑似乱数」と呼ばれています。一方、ここでの分子の配列に見られる配列は、絶対に予測することもできませんし、二度と作ることは出来ません。したがって、真の乱数発生器として機能するナノスケールの乱数発生装置といえます。(文献6)
    Journal of Nanoscience and Nanotechnology, Vol.12, (2012) 2081-2085051595e6b637c4e7247259eb3f591db
    (文献10) 

    図8 外見は同じだが中身のちがうフェリチンを結晶化すると、分子の配列がランダムになる。乱数の理想形。