磁気科学

 

磁気アルキメデスの原理

  • 氷が水に浮くのは、氷の密度が水の密度よりも小さいからです。「密度」は、地球の引力がその物体に働くときの単位体積当たりの引力の大きさを表していて、密度が大きいほど地球に強く引かれることになります。氷と水の場合は、水の方が氷よりも地球に強く引かれるため、氷は水によって押しのけられて地球から遠ざけられることになります。つまり、引力と反対方向、すなわち「水に浮く方向」に働く力が働くので、アルキメデスの原理は「浮力の原理」とも言われます。
    同じようなことが、磁石の周囲でも起こります。つまり、磁石に引き付けられやすい物体(液体や気体)の中に磁石に少しだけ引き付けられる物体を入れれば、後者は磁石から遠ざかる方向へ動くことになってしまいます。これが「磁気アルキメデスの原理」(Y. Ikezoe et al., Nature (1998))です。この原理をうまく使えば、磁石の力を増強し、不可能だと思われていたことも可能にできます。

    図1 磁場中で浮いた水の写真(直径2cmほど)

磁気アルキメデス浮上

  • 鉄ほどではないですが少しだけ磁石に引かれる物質があります。こちらは常磁性と言います。水は磁石に反発する物質です。ただし、その力はものすごく小さいので磁石を水に近づけても見ることは出来ません。一方、酸素は常磁性で磁石に少し引き付けられます。では、酸素ガスの中に水を入れた状態で下に磁石を置くとどうなるでしょう。酸素は磁石に引かれるので、水に対して浮力を与えます。結果的に、磁石があると水は酸素ガスの中で浮いてしまいます。図2が磁気アルキメデス浮上による水の磁気浮上の写真です。世界で初めて、地球上で水が浮くのを目の前で実現させた時の映像です。

    *磁気アルキメデスの原理を使わずに、部屋くらいの大きさの巨大な電磁石+巨大な超電導磁石を使って、細い穴の中に水の反発力だけを利用して水を磁気浮上させた実験はありますが、人が顔を近づけて目の前で水が浮くのを観察できるような状況ではありません。

    図2 硫酸銅水溶液の磁気浮上(こちらは、アーンショーの定理より、空中に浮上させるのは不可能だと思われていた、帯磁率が正の物質の磁気浮上の様子を示しています)

磁気分離

  • 国際宇宙ステーションの中で、宇宙飛行士が無重力状態で浮いている様子をテレビで見たことがあるでしょう。実は、宇宙ステーションの中で物体が浮いている状態と磁気浮上で物体が浮いている状態の間には、決定的な違いがあります。磁気浮上においては、物体の浮く場所は、その物体の磁性と密度で決まります。逆に言えば、磁性や密度が異なる二つの物質を混ぜて磁気浮上させると両者は別々の場所に浮くのです。例えば、PET ボトルはフタとラベルと本体は違う材料でできているので、普段ごみを捨てる時には分けて捨てることが推奨されていますが、磁気浮上による分離を用いれば複数の種類のプラスチック片が混ざった状態から簡単に分離が可能です(図3)。

    図3 磁場中で空間的に分離されたガラス片

磁気配列

  • 常磁性や反磁性の物質は、磁場があるところでは小さな磁石になっています。磁石の周りには磁束線(目には見えませんがN極からでてS極に向かって走っている線のこと)がありますが、常磁性や反磁性の物質が磁石になると、磁束線と平行な向きに並んだときはお互い引力を及ぼし数珠上につながります。また、磁束線に垂直な面内に物質が並んでいると、お互い反発して美しい配列構造を作ります。これは自己組織化の一種と言ってよいでしょう。

    図4 水面の金微粒子の配列

磁気対流

  • 磁石の横を通した水は、磁石を通さない水に比べて、水中の酸素の濃度が○○%高いので、磁場中では植物の生長が速くなるという特許や論文があります。しかし、計算すると、普通に購入できる磁石の中で最強のものを使ったとしても、####%の濃度の上昇があるだけです。この謎を検証するために、全く酸素が溶けていない水を用意し、酸素に触れさせてから酸素が溶けていく過程を観察しました。すると、磁石がある場合は、酸素が溶ける「速度が速くなる」ということがわかりました。ただし、「最終的に到達する濃度は磁石の有無に関係なく変わらない」ということもわかりました。ここでは、酸素が水に溶ける時に水中に流れが発生して(磁気対流)、水がかき混ぜられることによって酸素が速く溶けることがわかりました。磁石は物体を空中に止めることもできますが、かき混ぜることだってできます。

    図5 酸素ガスが水に溶ける速度が、磁場中では増大します。ただし、最終的にたどり着く濃度は変わりません。

対流

  • 磁場中では、対流が増幅されたり抑制されたりします。例えば、普通は暖められた空気は上昇しますが、磁場があると「暖められた空気が下に向かう」という不思議な状態を作ることも可能です。

    図6 磁場が無い時(a)は、右側の管を温めて何も起こりませんが、磁場があると、温められた空気が勢いよく外に噴出してきます。



マニピュレーション

  •  常磁性や反磁性の物質でも、外場が存在すると磁石に対する性質が変化するような物質があります。例えば、物質によっては、光を照射する前は磁石に反発する状態でも、光を照射すると磁石に引き付けられる状態へと変化させることも可能です。この現象を利用すれば、非接触で物体を動かすことが可能になるでしょう。口を閉じた状態でのボトルシップの作製、なんてこともできるかもしれません。

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シミュレーション

  •  磁場の研究をするときには、磁石の周囲の磁場分布を知ることは重要です。うちでは、様々な形の磁石の周囲の磁場分布を調べ、磁場の効果を最大限に発揮できる磁石の配置などをコンピューターシミュレーションによって計算しています。

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