MOF

エネルギー変換効率

  • ノーベル物理学賞を受賞したBraggの本*1)の中に、樟脳船が紹介されています。これは、おもちゃの船です。何百年も前から知られていた現象のようですが、簡単な化学の実験としてもよく知られています。樟脳船では、船の後方に置かれた樟脳が水に溶けだし、そこで水の表面張力を下げます。船の前方は表面張力が高いままなので、表面張力の差によって水面が動き、水面の動きとともに船も動く、という仕組みになっています。溶けだした樟脳が水面を覆い尽くしてしまうと、表面張力の差が生じなくなるので止まります。逆に、水面に分子があまりない状態の場合はよく動きます。私たちは、樟脳の代わりにジフェニルアラニンというペプチドをMOFの中に入れ、新しい化学モーターを作りました。ジフェニルアラニンが中から出てくることで水の表面張力が下がり、MOFの粒子が動きます。ここでジフェニルアラニンが表面ですぐに結晶化するので、水面が正常なままの状態で保たれ、非常に長い間モーターが動き続けるということがわかりました。

    “Concerning the Nature of Things” by William Henry Bragg, (1925)
    http://www.nature.com/nmat/journal/v11/n12/full/nmat3461.html

    図9 DPAとMOFで作った化学モーターの模式図と性能

発電機

  • 普通は、水の流れや、沸騰させた水の水蒸気の力でタービンを回すことによって発電を行いますが、そこまで大規模な施設は必要ではなく、小さな発電量でもよい場面があらゆるところに存在します。そのような場面での発電機をマイクロ発電機といいます。例えば、室内の電灯の光で少量の発電をさせたりすることで、エネルギーの無駄を省きつつ、何らかの機能を発揮する装置ます。私たちは、MOFのモーターで発電を試みました。これまでにも、このような化学モーターの研究はありますが、桁違いにエネルギー変換効率の高い発電機として機能することがわかりました。

    http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/adma.201404273/full

    図10 MOF+DPAでマイクロ発電機を作った。0.1マイクロワットの発電を実現

スマートMOF

  • 微生物が餌のありかを探知してそちらに向かうような行動は走化性といいます。このとき、ある程度以上の餌の濃度がないと感知できないので、低濃度の場所では動かないということになります。しかし、生物は、一般の植物を除いて、本来、自分で餌を探し求めて動くような能動的な動きをします。私たちは、能動的な動きと走化性を合わせ持つMOF-ペプチドモーターを作製しました。わずかな鉛のナノ粒子を感知できる化学モーターです。(文献1)

    http://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/acs.nanolett.5b00969

    図11 有害物質など、特定の化学物質を見つけて止まるような化学モーターの実現

触媒

  • 生体内の触媒は特別に酵素という総称で呼ばれますが、現世で最高級の触媒といえます。理由は、劇的に化学反応の速度を上げることができること、室温で機能を発揮できること、などがあげられます。そのようなことが実現される大きな理由は、触媒反応にかかわる分子が収納されるちょうどいい空間が存在し、その形が水中できちんと保持されていることです。MOFは、その両方の性質を持っています。すでに、触媒の研究はなされていますが、私たちは、単結晶のMOFを作って、内部を拡散している分子が変化する様子をリアルタイムで観測するのを試みています。



    coming soon